
ピロリ菌とは【胃がん予防】
ピロリ菌(Helicobacter pylori)は、強い酸性環境である胃の中でも生存できる細菌で、 らせん状の形態と鞭毛を使って胃の粘膜内を移動します。 感染すると、胃粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、慢性胃炎・消化性潰瘍・胃がんの主な原因となります。
ピロリ菌の早期発見と除菌は、胃がん予防に極めて重要とされています。 特に中高年層では感染率が高く、早めの検査と治療が推奨されます。
🧬 発見の歴史・由来
1982年、Robin WarrenとBarry Marshall(2005年ノーベル医学生理学賞受賞)がH. pyloriを発見。 Marshallは自ら飲菌実験を行い胃炎を発症し、抗菌薬で完治させ因果関係を証明しました。 実は1899年にJaworskiが類似菌を記録していたとも言われています。
📊 日本における感染率と感染者数
日本では出生年代によって感染率に大きな差があります。かつては上下水道の未整備などにより高齢層で感染率が高く、
70代以上では50〜60%、50代で30〜40%、20代以下では10%未満となっています。
最新の推計では、推定感染者数はおよそ3,000〜3,500万人とされています。
✅ 除菌による胃がん減少効果
除菌治療により胃がんの発症率が約50%減少し、再発や死亡率も抑制されます。
- 除菌群の胃がん発生率:0.87% vs 未治療群 1.2%
- 再発率:約半減(5.9% vs 11.4%)
- 胃がん死亡率:約22%減(RR 0.78)
🧪 除菌成功率とペニシリンアレルギー対応
通常の一次除菌成功率は約90%。 近年では耐性菌の影響で成功率が約70%に低下傾向があります。 ペニシリンアレルギーの方には、メトロニダゾール併用法やビスマス含有療法、ヴォノプラザン併用療法などが有効とされます。
ピロリ菌と病気の関係
● 慢性胃炎・萎縮性胃炎
ピロリ菌が産生するウレアーゼにより胃粘膜が炎症を起こし、慢性胃炎となります。 進行すると萎縮性胃炎となり、胃がんのリスクが高まります。
● 胃・十二指腸潰瘍
消化性潰瘍の多くにピロリ菌が関与しています。 再発予防には除菌治療が重要です。
● 胃がんとピロリ菌、その他のリスク因子
ピロリ菌(Helicobacter pylori)は 世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)から「Group I(人に対する発がん性が確実)」 として分類されており、胃がんの最大のリスク因子とされています。
📌 主なリスクファクター
-
ピロリ菌感染:
萎縮性胃炎や腸上皮化生を経て胃がんに至ることがあり、除菌により発症率は50%以上減少。
[IARC Monographs / NEJM 2012] -
喫煙:
長期の喫煙で胃がんリスクが1.5〜2倍に上昇。
[がん情報サービス] -
高塩分食:
塩分が胃粘膜を傷つけピロリ菌感染の影響を強める。
[JNCI 2004 / WHO Report 916] -
野菜・果物不足:
ビタミンや抗酸化物質が胃粘膜を保護。摂取不足でリスク上昇。
[Br J Cancer 2007] -
家族歴:
胃がん患者の家族がいるとリスクは約2〜3倍。
[Gastroenterology 2010] -
加齢:
年齢とともに前がん状態が進行。胃がんは高齢者に多くみられます。
[国立がん研究センター統計]
📉 除菌による胃がん発症・死亡リスクの低下
- 感染者の胃がん発症リスクは非感染者の約5〜10倍
- 除菌で発症率が50%以上低下(Fukase et al.)
- 死亡率は約22%減少(厚労省調査/NEJM, Gut誌など)
🔬 胃がん発症のメカニズム(Correaの仮説)
ピロリ菌感染 → 慢性胃炎 → 萎縮性胃炎 → 腸上皮化生 → 異型性 → 胃がん、という
多段階発がんモデルが知られています。
[Cancer Res 1992]
● その他の病気
- 胃MALTリンパ腫
- 特発性血小板減少性紫斑病
- 過形成性ポリープ、慢性じんましん、鉄欠乏性貧血 など
ピロリ菌の感染について
ピロリ菌は主に幼少期の経口感染で体内に定着すると考えられています。感染源は以下のような環境・行動に関連しています。
🦠 主な感染経路
- 家庭内での食べ物の口移し(母子感染)
- 上下水道が未整備の地域での生活
- 井戸水や未殺菌の飲料水
📊 年齢別の感染率(日本)
年齢が上がるほど感染率が高くなるのが特徴です。これは過去の衛生環境が影響しているためで、近年の若年層では大幅に減少しています。
年代 | 感染率(推定) |
---|---|
60代以上 | 60〜70% |
40〜50代 | 約30〜40% |
20〜30代 | 約10〜20% |
10歳以下 | 5%以下 |
👨👩👧👦 家庭内感染にも注意
感染者が家庭内にいる場合、同居する家族(特にお子さんや高齢者)に感染が広がる可能性があります。
家族全体の検査・除菌を検討することが予防につながります。
🔎 無症状でもリスクに
ピロリ菌に感染していてもすぐに症状が出ないことが多く、気づかれないまま慢性胃炎や胃がんへ進行することがあります。
症状がなくても、感染の可能性がある方は検査を受けることが推奨されます。
検査方法
内視鏡の有無に応じて複数の検査方法があります。
内視鏡を使わない方法
- 抗体測定法(血液・尿)
- 尿素呼気試験
- 便中抗原測定法
内視鏡を使う方法
- 迅速ウレアーゼ法
- 組織検鏡法
- 培養法
感染が確認された場合、速やかに除菌治療を行うことが重要です。
ピロリ菌の除菌方法と流れ
● 一次除菌(保険診療)
まず最初に行う除菌療法です。
2種類の抗生物質(クラリスロマイシン+アモキシシリン)と、PPI(胃酸分泌抑制薬)またはP-CABを併用し、1日2回・7日間服用します。
成功率:約80〜90%
● 二次除菌(保険診療)
一次除菌に失敗した場合、クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更し、再度同様の方法で7日間治療を行います。
成功率:約80〜90%
● 三次除菌(保険外診療)
二次除菌にも失敗した場合に行う自費診療です。
ご希望の方は医師へご相談ください。
💡 補足
- 除菌後は除菌成功の確認検査を行います。
- 抗菌薬耐性の影響で成功率は変動します。
- ペニシリンアレルギーの方にも別途対応可能(例:PPI+クラリスロマイシン+メトロニダゾール)です。
除菌後も安心せず、定期検査を
ピロリ菌の除菌により、多くのケースで胃がんや再発性潰瘍のリスクは低下しますが、 除菌前に「萎縮性胃炎」や「腸上皮化生」が進行していた場合、除菌後も胃がんのリスクが残るとされています。
そのため、ピロリ菌の除菌に成功した方でも、年に1回程度の内視鏡検査を継続的に受けることが推奨されます。
早期発見・早期治療につなげるためにも、除菌後の定期フォローアップをお忘れなく。
▶ 内視鏡検査について詳しくは、当院の 内視鏡ページをご覧ください。